第11回サル疾病ワークショップ講演要旨

II サル類の循環器の病態


1. サル類の心臓・血管系に認められる自然発生病変

柳井徳磨,谷口治亮,酒井洋樹,柵木利昭 (岐阜大COE野生動物感染症センター)

 サル類の循環器系 (心臓および血管) においては,加齢,感染に関連して,あるいは原因が明確でないものも含めて様々な変化が認められる.特に野生由来のニホンザル,あるいは動物園で長期飼育 した各種のサル類の老齢個体にはしばしば病変が認められる.いかに代表例を示す.

1. 心臓

 野生個体および動物園で長期飼育した各種サルの個体には,しばしば,心筋にビ慢性の線維化が種々の程度に認められる.また,心筋の高 度な肥厚と線維化を伴った心筋症に相当する変化が動物園で飼育したゴリラ,実験室で飼育したリスザルに認められた.このリスザルには大量の大動脈アテロー ム硬化症もみられた.また,心筋細胞におけるリポフスチンの蓄積も他の動物と同様に加齢に伴い認められる一般的な変化である.

2. 血管

 脳血管の石灰化:カニクイザル,ニホンザルなどマカク属,マーモセットの脳には,大脳基底核に左右対称性に球状あるいは塊状のミネラ ル沈着病変が,血管に関連して発現する.脳実質には障害を伴わないことから背景病変の一つと考えられる.ただし,慢性の感染症により,本病変の程度が増強 される場合がある.3から18歳のカニクイザル雄61例,雌73例を検索して,79例 (59.0%) に同ミネラル沈着病変が認められた.3歳から4歳の若い動物にも重度の病変も含めて高率に発生したことから,加齢との関連は明確ではなかった.沈着は, (1) 細動脈および細静脈の血管壁とその周辺における球状から塊状沈着,(2) 小動脈および外膜への細かい顆粒状沈着物である.元素分析では,沈着物から治療のカルシウムと燐,中等量から少量の鉄,アルミニウムおよび亜鉛が検出され ている.

 アテローム硬化症:飼育下のサル類には種々の程度に動脈のアテローム硬化症が認められる.14年にわたり飲食店の残飯を給餌,ケージ 内で飼育したニホンザル2例に認められた動脈のアテローム硬化症を示す.肉眼的に胸大動脈および腹大動脈では血管内壁は粗造でしばしば粥状 (プラーク) の沈着が認められた.組織学的に,内膜肥厚と中膜菲薄化により内膜と中膜の厚さが同程度になる部位が見られた.肥厚した血管内膜においては,(1) 泡沫状マクロファージ,(2) 平滑筋細胞の立ち上がり,(3) 脂質沈着,(4) 線維化,(5) コレステリン結晶沈着など人のアテローム硬化症のそれと共通した病理組織象がみられた.本症例は人の食事の残飯を主食としたことから人とほぼ同様な摂餌状 態にあり,運動不足も加えて,血清コレステロール値が上昇した状態,さらに肥満の状態にあったことが考えられた.

3. SIV感染下に認められたサイトメガロウイルス性動脈炎および動脈症

 SIV感染下のアカゲザルでは肺に高度な動脈の内膜肥厚からなる動脈症が高率に認められる.まれに,全身臓器の動脈に高度な内膜肥厚 と内腔の狭窄を特徴とする動脈症が認められる.この原因としては,サイトメガロウイルスに起因した動脈炎が考えられた.SIV感染下では,無菌性の心内膜 炎も希に認められるが直接的な原因は明らかではない.

戻 る