メスザルの生殖生理

山海 直
国立感染症研究所 筑波医学実験用霊長類センター


サル類はヒトにもっとも近縁の動物であり、生理学的に類似するところが多く実験動物としての有用性が広く知られている。霊長類にのみ感 染する病原体も多く存在し感染症関連の研究分野において必須の動物種となっている。また、代謝系が似ていることから代謝性疾患研究、あるいは他の実験動物 にくらべて寿命がながく長寿科学研究への適用、さらに高次能機能研究など多くの研究分野において実験動物としてのサル類に期待するところは大きい。

しかし「サルはヒトではない」あたりまえのことであるがここで強調しておきたい。「似ている」が決して「同じ」というわけではない。 よって、サル類の生理を十分に把握したうえで実験データの解析を行わなければ誤った解釈をしてしまう危険もあるだろう。さらにサル類といってひとくくりに してこれら生理を理解することもできない。類人猿、旧世界ザル、新世界ザルなど当然その生理も異なっている。たとえば類人猿と旧世界ザルはヒトと同じ月経 周期をもつ数少ない動物種であり、カニクイザルの月経周期の長さは約28日であり、ヒトにきわめて類似している。また、カニクイザルは周年繁殖動物であり 1年を通じて産児を得ることができる。しかし、カニクイザルと同じマカカ属でもアカゲザル、ニホンザルなどは季節繁殖動物であり、カニクイザルやヒトとは 全く異なる繁殖機能を有している。このような生殖生理を理解するための一手段として性ホルモンの動態を知ることは重要であり、本ワークショップでは当セン ターのカニクイザルから得られた性ホルモンに関する研究成果を中心にサルの生殖生理を紹介したい。また、当センターは世界にも類をみない大規模室内繁殖コ ロニーを確立しているが、そのコロニーにおける繁殖関連成果を示すとともにコロニー内で生じる問題を提示してみたい。

私自身は、生殖生理に関わる基本データをもとにサル類の発生工学的研究を実施している。メスザルの内因性の性ホルモン動態を知ったうえ でホルモン投与を実施してホルモン動態をコントロールすることで卵胞発育を誘起している。また、受精、着床、妊娠維持、分娩という一連の生殖現象を人為的 コントロール下で再現することを試みている。

カニクイザルを中心としてメスザルの生殖生理を紹介するとともに、それを基本にした私の仕事の一部を紹介することで、実験動物としての サル類の繁殖、維持、そして疾患等の研究を行うにあたっての情報提供になれば幸いと考えている。