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Basic Infromation
INDEX
第1回サル疾病ワークショップ講演要旨
第2回サル疾病ワークショップ講演要旨
1. 最近、リスザルにみられた感染症
2.安全性試験でのサル類にみられる基礎病変
3.サル繁殖施設でみられる病変(TPCでの症例)
4.サルの臨床におけるトピックス
5.症例報告
サル類の疾病カラーアトラス
Color Atlas of Primate Diseases
第4回サル疾病ワークショップ講演要旨
第6回サル疾病ワークショップ講演要旨
第7回サル疾病ワークショップ講演要旨
第8回サル疾病ワークショップ講演要旨
第11回サル疾病ワークショップ講演要旨
第12回サル疾病ワークショップ講演要旨
サル類の疾病ハンドブック(病理編) 執筆要領のご案内
局所性病変の執筆者の方は各自ご確認ください
この件に関するご質問,ご意見は
麻布大学獣医学部病理学研究室 宇根 有美 une@azabu-u.ac.jp まで
局所性病変執筆要項
局所性病変リスト
第1回サル疾病ワークショップ講演要旨 筑波 研究者交流センター
2000年7月7日 名古屋市 東海学園大
1. サル類由来の人獣共通感染症 (吉川泰弘):
現在,検疫の現場,サル類を扱う研究室,さらに動物園で問題となる人獣共通伝染病を紹介し,その防疫の要点を概説する。
2. 免疫抑制状態での日和見感染症 (柳井徳磨):
サルを用いた移植実験および免疫抑制剤の開発,AIDSモデルとしてのSIV感染実験など免疫抑制状態では,種々の日和見感染症が認められる。サル類でみられる日和見感染症の病態を概説する。
3. サル類の加齢性病変?老人斑について (中村紳一朗):
サル類の脳における老人斑の形態学的特徴を示し,ヒトの老人斑のモデルとしての有用性について考察する。
第2回サル疾病ワークショップ講演要旨 筑波 研究者交流センター
1. 最近、リスザルにみられた感染症
麻布大学獣医学部病理学研究室 宇根有美
リスザルは、新世界ザルの1種で、ペルーやボリビアを中心とする熱帯地方で樹上生活をするサルで、体重は500 ?1000gと小型で、取り扱いやすく、愛くるしいことから、実験用、動物園展示用および愛玩用として、近年、輸入数および飼育数が増加している。
・輸入数(1998年度) 1年間に250頭※
・動物園 飼育園館数 70機関、飼育数 約1000頭(日本動物園水族館協会資料による1996)
・小動物開業医を対象とした診療対象動物に関するアンケートで約2660件のうち、25.6%の獣医師がリスザルを診察した経験をもつ。
(※資料:輸入動物及び媒介動物由来人畜共通感染症の防疫対策に関する総合的研究 吉川班)
1.トキソプラズマ症
トキソプラズマ症は、猫を終宿主として広域な宿主域を有する原虫疾患で、人畜共通伝染症として、良く知られた疾患である。
一般にリスザルを含めて新世界ザルおよび原猿類のサルは、Toxoplasma gondii に感受性が高いといわれ、国内外でいくつかの報告がある。
今回は国内の2つ施設で、発生率および致死率の高いトキソプラズマ症の集団発生をみたので紹介する。
また、この事象に基づいて、感染経路についてToxoplasma gondii ME49株を用いて検討したので、その概要も併せて紹介する。
(本内容は、第127回日本獣医学会獣医病理学会1999で報告した)
2.エルシニア症
Yersinia 属細菌はグラム陰性通性嫌気性桿菌で、ヒトを含めて問題となる菌種は(人畜共通伝染病)
1)Y. pestis,ハ
2)Y. enterocolitica,
3)Y. pseudotuberculosisハハ で、
1)は国内での発生は見られず、2と3)は主として消化管に感染し、2)は食中毒菌として、
3)はヒトの泉熱の原因として良く知られている。
今回は、1施設において長期間にわたって、散発的に発生の見られたYrsiniapseudotuberculosis感染症(仮性結核病)について紹介する。
3.シュードモナス属細菌感染症
Pseudomonas 属細菌はグラム陰性好気性桿菌で、この菌種の多くは土壌、海水、下水道、腐敗有機物、食品などの自然界に広く分布している。病原性は一般に低いが、過酷な環境でも増殖し、多くの消毒薬や抗生剤に抵抗性があるため、菌交代症や院内感染症を起こす菌として重要で、代表的な細菌として緑膿菌Pseudomonas
aeruginosaがある。
今回は、プールなどでよく見られる環境細菌の1つであるPseudomonas alcaligenesによる壊死性胸膜肺炎の集団発生を紹介する。この発生は、感染症新法施行直前の1999年末に大量輸入されたリスザルにみられたものである。また、緑膿菌による敗血症についても触れる。(本内容は、第130回日本獣医学会獣医病理学会2000で報告した)
4.肺炎桿菌感染症
Klebsiella pneumoniaeの経口感染による咽頭炎および髄膜炎の集団発生について簡単に紹介する。 (本内容は、第131回日本獣医学会獣医病理学会2001(農工大)に報告予定である)
2.安全性試験でのサル類にみられる基礎病変
(株)新日本科学 毒性病理部 前田 博
<はじめに>
霊長類は,キツネザルやロリスが含まれる原猿,マーモセットの含まれる広鼻猿(別名,新世界ザル),カニクイザルやアカゲザルの含まれる狭鼻猿(別名,旧世界ザル),およびテナガザル,オランウータン,ゴリラ,チンパンジーなどの類人猿に分類される.
近年,サル類は分類学的にヒトに近く,また薬理学的反応,毒性学的反応,薬物の吸収,分布,代謝,排泄などが類似することから,安全性試験に多用されている.サル類の中でも繁殖飼育の容易さなどの理由からニホンザルと同じマカク属に属するカニクイザルが安全性試験に多用されている.しかし,自然発生病変については,希少例あるいは感染症の報告はあるものの,げっ歯類,ビーグル犬など安全性試験に用いる他の動物種と比較して,これら安全性試験に用いられるサル類のバックグラウンドデータの報告は極めて乏しいのが現状である.
私どもは,サル類の安全性試験に関して膨大なデータを蓄積している.本研究会では,サル類の臓器重量などのバックグラウンドデータをヒトやイヌ,ラットなど他の実験動物と比較するとともに,サル類の中でも最も頻繁に安全性試験に用いられるカニクイザルの代表的な臓器の正常組織像,代表的な自然発生性の病理像を紹介する.
<臓器重量>
臓器重量では,サル類およびヒトでは,他の動物種と比較して脳の相対重量が大きく,大脳の発達が著しいなど,サル類とヒトの腫瘍臓器の相対重量は近似している.
<正常組織像>
サル類およびヒトでは脾臓やリンパ節におけるリンパ濾胞が大きく,脾臓では脾洞の構造が明瞭に観察できる.
また,肝小葉,腎糸球体,肺胞の大きさがマウス,ラット,イヌ,サル類,ヒトの順に大きくなるなど,組織学的にサル類とヒトでは類似点が多い.
<自然発生病変>
非腫瘍性病変としては,諸臓器の褐色色素の沈着,鉱質沈着および動脈硬化,糸球体腎炎などの糸球体病変,腎盂および膀胱上皮の硝子滴,副腎皮質結節などの内分泌系臓器の病変が頻発し,また,頻度は低いが多彩な病変がみられることが他の実験動物にない特徴である.
腫瘍性病変は,卵巣の良性奇形種,腎細胞癌,消化管の肥満細胞腫,乳癌などがみられる,安全性試験で用いるサル類は10才以下で若いため,発生頻度はきわめて低い.
3. サル繁殖施設でみられる病変(TPCでの症例)
筑波霊長類センター 榊原一兵
筑波医学実験用霊長類センター(TPC)は1978年に新設された。その設立の目的は,効率よくじか生産された健康なサルを利用者に安定供給すること。また第二の目的はその繁殖基礎集団の遺伝子保存やSPF化をめざし品質の向上をはかることである。
そのため,野性由来のサルをもとに,「自給自足的」に継続して繁殖するために世界に類例を見ない大規模屋内飼育施設がはじめて建設された。したがって,その飼育管理および繁殖育成システムの立案およびその実施は,それ自体が実験的性格をもっていた。そしてセンターの開設より20数年の間に,当初予想もしなかった様々な疾病が発生した。
今回,症例報告する数種類の疾病は,その発生や感染の伝播にこれらの飼育管理方法が密接に関係していると考えられる。そのため病理解剖および組織所見に加え疫学的調査結果も報告する。今後,サル類の飼育繁殖のシステムを検討するうえで重要な情報を発していると思われる。
1) サル水痘様ウイルス感染症
2) クル病(骨軟症)
3) アメーバ赤痢
4) 糖尿病
5) 「動物の愛護および管理に関する法律」に関係する症例
4.サルの臨床におけるトピックス
社団法人予防衛生協会 小野 文子
筑波医学実験用霊長類センター(TPC)では1978年より完全室内飼育方式によるカニクイザルの大規模繁殖が行われ、現在約1500頭が飼育されている。繁殖・育成カニクイザルコロニーにおける疾患(外傷等は除く)の発生状況を定期的に実施されている健康診断のデータから抽出したところ、5歳齢までの若年期では8.6%(脾腫、心雑音等では若齢期のみに認められ、経年により症状が消失するものも含む)であるが、繁殖年令に相当する5歳以上15歳未満では疾患発生率は約20%で貧血、薬剤不応答の長期下痢等が認められた。
15歳以上になると基礎疾患が認められた個体は約40%となり、そのうち、重度肥満、高血糖等代謝異常が18%を占めた。20歳以上の高齢群では70%の個体に明らかな基礎疾患が認められた。糖尿病、高中性脂肪血症の代謝性疾患に伴い様々な合併症が認められ、血液生化学データにおいては、平均血糖値90mg/dl、中性脂肪200mg/dlと繁殖・育成コロニーにおける平均値(血糖値;58mg/dl、中性脂肪;68mg/dl)を大きく上回っていた。また、死亡原因としても、基礎疾患として糖尿病を持っている個体における肺炎等感染症が大きな割合を占めていた。
自然発症性糖尿病素因の検索のために、過去5年間の定期健康診断で、肥満あるいは血糖値、血中脂質のいずれかが高値を示した93頭のサル(選抜群)について糖負荷試験を実施した。肥満については性別、年齢、妊娠等の諸条件を考慮し外部検診にて過肥と診断された個体とした。血液パラメーターについては過去5年間に定期健康診断で実施された動物の検査結果の平均+標準偏差(血糖値:81mg/dL、トリグリセリド値:150mg/dL、総コレステロール値:173mg/dL)を超えた値を指標とした。
糖負荷試験における、血糖消失速度K値が2.00未満を示した個体を糖尿病リスク群としたところ、選抜群の25%にあたる23頭(検査対象全体の約1.4%)が抽出された。23頭における空腹時血糖値は115±46mg/dl、グリコヘモグロビン値は4.98±1.49%、糖負荷試験K値は1.22±0.61%min及び、インシュリン曲線下面積は120±75μU・h/ml、であった。糖尿病発症様式としては、多くは、肥満が先行して糖尿病が発症しており、数年にわたる慢性肥満の後、急激な体重減少と同時に血糖値上昇が認められる症例、比較的急激な体重増加の後、徐々に体重は減少し、それと交差しながら血糖が上昇する症例があった。
5.症例報告
1.若年シシオザルにおける横紋筋肉腫の1例
国谷泰子,柳井徳磨,酒井洋樹,柵木利昭
サル類における横紋筋腫瘍の報告はほとんどない.若年のシシオザルにみられた横紋筋肉腫の特徴につき病理学的特徴を調べ,免疫組織学的マーカーを検索した.
【症例】
4歳の雄シシオザル.左腕の肘部の腫瘤状腫脹に気づき,腫瘤の外科的摘出を行う.摘出後1ヶ月で腫瘤は再び摘出前の大きさに成長したため肩関節より左腕を切断した.
その後,左胸部が腫瘤状に腫脹したため,左鎖骨周囲の広範囲な腫瘤摘出を行うが,肩部の広範囲な自壊を示して,腫瘤発見7ヶ月後に死亡した.左腕腫瘤部のX線像では,腫瘤と骨に明瞭な関連は認められなかった.
【肉眼および組織像】
摘出された左腕肘部では,皮下および筋層に黄白色腫瘤が瀰漫性に浸潤していた.組織学的には,皮下織および筋層において多形性腫瘍細胞の高度な浸潤増殖が認められた.腫瘍細胞の核は,極めて高度な大小不同を示し,明瞭な核仁を1ないし2個有し,細胞分裂像は極めて豊富であった.腫瘍細胞の細胞質は,弱好酸性顆粒状で,まれに微細線維状を示す.奇怪な形状の多角巨細胞,2個以上の核が連なる合胞体様細胞もしばしば出現した.細胞間には,少量の膠原線維がみられた.PTAH染色では,細胞質には横紋は証明されなかった.免疫組織学的には,デスミン,ミオグロビン,クレアチンフォスホキナーゼおよびビメンチンに陽性,α1アンチキモトリプシン,リゾチームおよびAM-3Kには陰性であった.
【まとめ】
細胞形態および免疫組織から,横紋筋肉腫が疑われた.極めて多形性に富む細胞が混在することから,ヒトの多形細胞型横紋筋肉腫に相当すると考えられた.鑑別診断としては,悪性線維性組織球肉腫があげられるが,組織球系細胞の指標であるリソチームおよびAM-3Kに陰性であったことから否定された.サル類では,極めて稀な横紋筋肉腫の1例である(第131回日本獣医学会で発表予定).
サル類の疾病カラーアトラス
Color Atlas of Primate Diseases
・対象とすべき内容
1.検疫のための感染症
2.毒性病理の背景病変
3.動物園動物にみられる自然病変
4.加齢性病変および腫瘍
・材料提供依頼先
霊長類研究所 霊長類学会
筑波霊長類センター
獣医大学(獣医学会)
動物園(野生動物医学会)
製薬企業および受託試験研究所(毒性病理学会)
米国霊長類センター(New England Regional Primate Research Center等)
・アトラスの出版見込み
平成14年4月?15年4月
・序(発刊にあたって) (吉川)
・本書の使い方 (柳井)
・執筆者一覧 (柳井)
・目次 (柳井)
項目の構成 2部制
1部:全身病疾患(Zoonosis,感染症,代謝性疾患を含む集団発生の様相を示すもの)
1. ウイルス性疾患 (総説:吉川)
2. 細菌性疾患 (総説:宇根)
3. 寄生虫性疾患(蠕虫症、原虫症
4. 代謝性疾患
5. 中毒
6. その他
1部:全身病疾患(Zoonosis,感染症,代謝性疾患を含む集団発生の様相を示すもの)
1.ウイルス性疾患
ポックスウイルス(サルポックス,ヤバ,タナポックスがあります)
ヘルペスウイルス(Bウイルス,バリセラ(水痘),サイトメガロ,突発性発疹)
フィロウイルス(エボラレストン,マールブルグ)
パラミキソ(麻疹)
レトロ(SIV,D型レトロウイルス感染)
ピコルナ(A型肝炎)ハ
トガ(サル出血熱?)
2. 細菌性疾患
結核
鳥型結核菌
赤痢
サルモネラ
キャンピロバクター
肺炎球菌
3. 寄生虫性疾患(蠕虫症,原虫症)
トキソプラズマ症
クリプトスポリジウム
マラリア
赤痢アメーバ
ジアルジア症
pinworm
糞線虫
肺虫症
4. 代謝性疾患
ビタミンD欠乏症(クル病)
ビタミンC欠乏症
糖尿病
高脂血症(動脈硬化症)
5. 中毒
メチル水銀
カドミウム
鉛中毒
6. その他
ガスザル(急性鼓腸症?)
マーモセットのwasting disease
2部:局所性疾患(毒性病理の背景病変,腫瘍など)
各系統の病変の並べ方は,総論順に
1)局所奇形,2)循環障害,3)壊死,4)退行変性,5)進行性変化,
6)炎症,7)寄生虫,8)腫瘍
1.外景
・姿勢の異常,運動障害,神経症状,体型の異常(腹囲膨満,水頭症,ヘルニア)
・皮膚:出血,水腫,水胞,発赤,発疹,蕁麻疹,色素沈着,皮膚の色調異常(チアノー ゼ,貧血,黄疸,メラニン沈着),脱毛,カ皮形成,びらん・潰瘍,外傷(自コウ傷を 含む),皮膚炎(ウイルス性,細菌性,外部寄生虫,物理的・化学的),基底細胞腫
・感覚器:耳(耳道炎),鼻(慢性鼻炎),眼(盲目,前眼病変;角膜潰瘍,白内障,緑内 障,網膜変性症,黄斑変性症,網膜血管遺残,網膜剥離,網膜腫瘍)
循環器系
a.心臓
・形状の異常:奇形,心嚢水腫,心タンポナーゼ,心の肥大および拡張,
・変性・壊死:アミロイド症,心筋梗塞
・心内膜炎
・腫瘍
・ 動脈硬化
・ 血管原性腫瘍
b.血管
・動脈硬化,血栓,血管炎
・腫瘍:血管肉腫
2.造血期系
a.脾臓,リンパ節
b.骨髄
c.胸腺
3.呼吸器
a.気管
b.肺
・水腫,気腫,血栓症,血鉄症,炭粉沈着症,気管支拡張症
・肺炎:誤嚥性肺炎,細菌性肺炎,ウイルス性肺炎(サイトメガロウイルス感染症)
真菌性肺炎,肺結核,寄生虫症(肺ダニ症,肺虫症)
4,消化器
a.舌・歯:口腔のBウイルス感染症,歯肉過形成,カンジダ症,舌虫症,舌癌
b.食道:食道の寄生虫,食道癌
c.胃:破裂,捻転,潰瘍,胃の寄生虫性ポリープ,アデノウイルス感染症,胃癌
d.腸:腸炎(キャンピロバクター感染症,サルモネラ感染症,大腸菌,赤痢菌,鳥型結核 菌症,クリプトスポリヂウム症,バランチジウム症,トリコモナス症),蠕虫症(線虫、 条虫),大腸癌
5.肝臓・膵臓
a.肝臓・胆道系
・ うっ血,変性(脂肪肝,アミロイド肝,黄疸),肝硬変,肝炎(B型肝炎,アデノウイ ルス,ティザー菌,好酸菌症,トキソプラズマ),胆管炎(クリプトスポリジウム,エ ンテロサイトゾーン)
b.膵臓
・ラ氏島アミロイド変性
・膵炎(アデノウイルス感染,クリプトスポリジウム)(柳井)
・ラ氏島過形成
6.腹腔
・腹膜炎,腫瘍
7.泌尿器系
a.腎臓
・嚢胞腎,水腎症
・壊死(梗塞,サイトメガロウイルス,SV40)
・腎炎(間質性、糸球体,サイトメガロウイルス感染)
・中毒:シュウ酸塩中毒,鉛中毒
b.膀胱
・膀胱結石,膀胱炎,好酸性封入体
8.性器および乳腺
a.卵巣・子宮:子宮内膜症(内膜症,外膜症),顆粒膜細胞腫,卵巣奇形腫
b.精巣:精巣壊死
9.内分泌系
・副腎の石灰化
10.神経系
・ 脳炎(細菌性,ウイルス性)
・ 大脳基底核石灰沈着(柳井),スフェロイド,老人斑
11.運動器系
・筋肉:出血,変性・壊死,住肉胞子虫症
12.奇形
13.毒性試験に遭遇する背景病変のまとめ
発生頻度の表
14.加齢に伴う病変のまとめ
15.腫瘍性病変
発生頻度の表
第4回サル類の疾病に関するワークショップ
平成14年2月14日(木) 13:00〜17:15
文部科学省研究交流センター国際会議場 (茨城県つくば市竹園2-20-5)
参加費:無料
| 1) |
サル類の疾病と病理のための研究会第4回総会 |
13:00〜13:15 |
| 2) |
第4回サル類の疾病に関するワークショップ |
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| 1. |
サル類を用いた化学発癌実験とその腫瘍 |
13:15〜14:15 |
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昭和大学 高山昭三先生 |
座長 吉川泰弘先生 |
| 2. |
Bウイルスの病理 |
14:15〜14:35 |
|
岐阜大学 柳井徳磨先生 |
座長 宮嶌宏彰先生 |
| 3. |
Bウイルスの診断 |
14:35〜14:55 |
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予防衛生協会 藤本浩二先生 |
座長 宮嶌宏彰先生 |
|
休憩 14:55〜15:10 |
| 4. |
類人猿の臨床
(コンゴにおけるゴリラボノボ孤児院も含め) |
15:10〜15:50 |
|
三和化学 鵜殿俊史先生 |
座長 後藤俊二先生 |
| 5. |
トピックス:サル類における鉤頭虫症 |
15:50〜16:20 |
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麻布大学 宇根有美先生 |
座長 小野文子先生 |
| 6. |
症例報告 16:20〜17:00 |
座長 前田博先生 |
|
1)チンパンジーのエルシニア症 |
三和化学 江見美子先生 |
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2)ニホンザルにおけるBaylisascaris属回虫幼虫移行症 |
麻布大 岸夏樹先生 |
| 7. |
総合討論 17:00〜17:15 |
座長 長文昭先生 |
第4回総会資料
| 1. |
会長挨拶 |
吉川泰弘会長 |
| 2. |
経過報告 |
柳井徳磨事務局長 |
●コンピュータシステムHP再構築●
http://www.spdp.net WS案内,メイリングシステム
自動会員登録,WS参加申込み,懇親会申込み,English対応
●賛助会員募集●
原則として法人;会員にはサポーターコーナーにロゴ登録(リンク)
年会費一口2万円
● 第3回サル疾病ワークショップ●
2001年7月12日(木) 京都大学 (人類学会・霊長類学会) 参加 70名
1.安全性評価で問題になるサルの自然発生性病変 渡辺満利,下井昭仁,小泉治子
2.京大霊長研におけるサル類の疾病 後藤俊二(京大霊長研)
3.エボラレストンの自然感染例の病理 池上徹郎(東大大学院)
4.サルにおける下痢症の臨床 小野文子(予防衛生協会)
5.症例報告
a.サル類における鉛中毒症 国谷泰子(岐阜大)
b.リスザルのタコ足細胞の過形成を伴うメサンジウム増殖性糸球体腎炎 宇根有美
●獣医学会病理学会(盛岡)における「サル類の疾病ワークショップ」
●2001年10月6日
1.サル類における感染症;総論および人獣共通伝染病 吉川泰弘(東大院・実験動物)
2.サル繁殖施設にみられた感染症 榊原一兵(筑波霊長類センター)
3.ヒトAIDSモデルとしてのアカゲザルSIV感染症 柳井徳磨(岐阜大学・農学部)
4.リスザルコロ二-における感染症 宇根有美(麻布大・獣医学部)
5.サルの自然発生腫瘍および誘発腫瘍 高山昭三(昭和大) 参加 100名
協議事項
●第4回サル類の疾病ワークショップ●
2002年2月14日 筑波 文部科技庁研究者交流センター 別紙の通り
●第5回サル類の疾病ワークショップ (案)●
2002年7月 日13:00〜 東京大学
霊長類学会自由集会 詳細はHPにて5月初旬に公開
● アトラス作製に向けて●
編集委員会を組織
編集委員 宇根,柳井,後藤,前田,吉川
病理疾病編 2002年11月に原稿集め終了
● 5周年記念●
2005年
アジア地区合同ワークショップ 検討中
第4回サル類の疾病ワークショップ講演要旨
1.サル類を用いた化学発癌実験とその腫瘍
高山昭三 (昭和大学) (座長 吉川泰弘)
1).アメリカ国立癌研究所(NCI)で1961年から34年間遂行されたnonhuman
primatesの研究について大略を報告する。
2).NCIで行われたnonhuman primatesの飼育全般,定期検査,記録,剖検と組織検査につ いて述べる。
3).34年間に381頭のnonhuman primatesが,いわゆるcontrolとして使用された。381頭
に発生した自然発生良性・悪性腫瘍とその特色について報告したい。
4).NCIでnonhuman primatesに長期間(20〜32年間)投与した・癌化学療法剤,・食品中 に作られた化学物質,食品添加物,・げっ歯類の発癌物質及び・ニトロソ化合物により形
成された腫瘍と組織型について述べる。
2.Bウイルスの病理
柳井徳磨 (岐阜大学農学部),M. Simon(NERPRC)(座長 宮嶌宏彰)
近年,医学生物学の分野ではマカク属の需要が高まりつつある。マカク属サルを用いて実験を行うにあたり,一番問題になるのが人獣共通伝染病のBウイルス感染である。
Bウイルスの自然宿主はアカゲザルなどマカク属のサル類である。伝播は,サル同士では,接触,エアーゾル,人には噛み付き,引っかき,細胞培養により感染する。捕獲サルの70から100%が血清陽性で,症状が無くともウイルスを排出する可能性がある。病変はサル類とヒトでは質的には同様である。ヒトでは,Bウイルス感染時,暴露部位で水泡,潰瘍,強い痛みと痒み,痺れ,知覚異常などがみられ,最終的には全身リンパの腫大,発熱,筋肉脱力,麻痺,結膜炎が起こる。
臨床的には,口腔の水泡と潰瘍形成,結膜炎,稀に播種性感染がみられる。水泡にはウイルスが含まれる。口腔粘膜の潰瘍,出血を示します。サルでは,上皮細胞の風船様変性,多核細胞化,壊死がみられ,人では多中心性の壊死性脳脊髄炎,脾臓,肝臓,リンパ節,副腎の壊死が特徴である。
血清学的にBウイルス陽性とされたサルを解剖する場合の留意点につき示す。解剖には使い捨ての解剖着,前垂れを着用する。
・ 必ずマスク,プラスチックのフェイスカバー,帽子,靴カバーを着用すること。
・ 骨カッターは防塵装置付きの物を使用する。
・ 傷口の手当てキットを準備する。
・ 理想的には,個人用の空気ボンベを使用する。P3レベルの施設が望ましい。剖検者は,感染 を証明するためプレ血清をあらかじめ採取し保管しておく必要がある。
“マカクは全てウイルスを排出している”との前提にたって,サルの材料を処理することが必 要。
全身に播種性感染を示した雌の1例を供覧する。症例は自家繁殖の4歳の雌で,難産後死産胎児を帝王切開で取り出した。腹膜炎を併発したため安楽死した。組織学的には,壊死巣が多臓器に認められ,しばしば多核細胞形成,封入体を伴っていた。免疫染色では,ヒトヘルペス1型と交差し,封入体に一致して,陽性像が認められた。
暴露された場合,その後2,3分が重要で,すぐ洗浄し,サンプル採取,次いで医師の診断を受けることが肝要。治療は,抗ウイルス薬のアシクロビルなどが有効。
3.Bウイルスの検査
藤本浩二(社団法人予防衛生協会) (座長 宮嶌宏彰)
Bウイルスの検査ではウイルス分離検査と抗体検査が行われる。
Bウイルス検査で重要な点はバイオハザード対策とBウイルスとヒトおよびサル由来αヘルペスウイルスとの判別である。
【ウイルス分離検査】
1999年4月に国立感染症研究所の病原体等安全管理規定が改訂され、診断を目的としたBウイルスの少量培養はバイオセーフテイレベル3で可能となり、培養細胞株等を用いた分離検査が行われる。
ウイルス同定と迅速診断を目的としてBウイルスのPCR検査法が開発され、PCR産物の制限酵素処理断片の比較(RFLP)や塩基配列の決定により、Bウイルスとヒトおよびサル由来αヘルペスウイルス5種がそれぞれ判別できる。
【抗体検査】
Bウイルス中和試験はバイオセーフテイレベル4での実施が必要であるため国内では行われていない。抗体検査は米国BioReliance
社から輸入した不活化Bウイルス抗原を用いてELISA法で実施している。 Bウイルス抗体検査では抗体価の変動を考慮して定期的な実施が重要である。
ウエスタンブロット検査は確認検査として有用であるが、 抗原の調整や判定の基準など課題が残る。
ヒト血清中のBウイルス抗体検査では、単純ヘルペスウイルス抗体がBウイルスと反応するため、ヒト血清を単純ヘルペスウイルス抗原で吸収後検査をする必要がある。
Bウイルスの大量培養、 抗原の調整はバイオセーフテイレベル4で実施する必要があるため、代替抗原として、Bウイルス由来のリコンビナント蛋白、アフリカ産サル由来αヘルペスウイルスの使用が検討されている。
【SPFサルコロニー】
Bウイルス抗体陽性の親ザルから仔ザルを早期に離乳する方法で未感染ザルが得られるため、これを第1世代SPF繁殖群としてコロニーを継代している。 SPFコロニーついては、定期的なBウイルス抗体検査を行い、感染の有無を確認することが重要である。
ワークショップでは、予防衛生協会で実施している検査の実際について説明したい。
4.類人猿の臨床(コンゴにおけるゴリラ・ボノボ孤児院も含め)
鵜殿俊史(三和化学研究所熊本霊長類パーク)(座長 後藤俊二)
類人猿科(Pongidae)に属するゴリラ、オランウータン、チンパンジーおよびボノボは大型類人猿とも呼ばれヒトに最も近縁なサル類である。いずれも絶滅の危機に瀕している。
このことは、同時に以下のようなこれら類人猿獣医療の特殊性をもたらす原因ともなっている。
1.ヒトに非常に近縁であるため、多くのヒト用検査薬や医療器具がそのまま利用できる。生理 学的にはほとんどヒトと同じで、膨大な人医学の情報や技術を利用することが出来る。しか し反面、ヒトの感染症のほとんどに感受性を持ち、飼育下では常にヒト由来感染症の危険に さらされている。
2.ヒトに次ぐほど高度な知能を持つため、管理者の表情から意図を読みとり、混餌投薬を見抜 くなど治療に抵抗するため、診療には工夫と熟練が必要で、時にはインフォームドコンセン トも必要となる。
3.個性を持ち、個体ごとの性格や経歴を熟知しなければ個体の健康状態を把握することが出来 ない。また、高い精神性を持つ為に、疾病時にはメンタルケアも必要である。
4.体が大きく力が強いため、診療の際には触診・聴診・採血さえ全身麻酔を必要とする。
5.飼育個体数は少なく、獣医学的基礎データや診療経験の蓄積が困難である。しかし40年以 上ともいわれる寿命を幸福に全うさせるためには、高度な獣医療が要求されるだけでなく、 種に特有な習性を理解し、飼育管理者とともに生活の質(QOL)を保証するための専門的 知識が必要である。
このように類人猿の臨床には高度な専門性が要求されるが、国内には類人猿を専門とする獣医師はわずか3名おらず、手探りでの診療が続けられている。
発表では、三和化学で見られたチンパンジーの症例と診療経験を中心に、コンゴ共和国ゴリラ孤児院で見られたゴリラ、ボノボの症例を合わせて紹介し、類人猿の獣医臨床の現状を紹介する。
5.サル類における鉤頭虫症
宇根有美1、岡林佐知1、堀 浩2、佐藤 宏3、野村靖夫1(1麻布大学獣医学部病理学研究室、2麻布大非常勤講師、3弘前大学医学部寄生虫学研究室) (座長 小野文子)
鉤頭虫 Acanthocephala は、昆虫などを中間宿主として、主として小腸に寄生する蠕虫の1種で、条虫と線虫の中間形を呈しているといわれている。鉤頭虫門に属する蠕虫は、日本では、南西諸島のイノシシやブタにおける大鉤頭虫Macracanthorhynchus
hirudinaceusとネズミなどの鎖状鉤頭虫Moniliformis spp.の存在が知られている。この2つの鉤頭虫は、ときにヒトにも感染するため、人畜共通感染症として捉えられている。今回、紹介するサル類に認められた鉤頭虫症は、南米のサルに良くみられるProsthenorchis属鉤頭虫で、海外の新世界ザル飼育施設で大きな問題を引き起こすことが知られている。国内では、輸入直後のサルの糞便検査で寄生を確認した報告はあるが、発症例あるいは集団発生の報告は見当たらない。今回、この鉤頭虫により高度に汚染された国内サル飼育施設で致死例の発生を見たので報告する。
【材料と方法】
約70種のサルを飼育する施設で、食欲不振、削痩、衰弱などにより、リスザル42頭中5頭が斃死した。この施設は3エリアより成り、死亡例はAエリアのみで発生し、うち4頭を病理組織学的に検索した。さらに同施設内のサル14種類(アカテタマリン、ムネアカタマリン、ワタボウシタマリン、クロクビタマリン、ドウグロタマリン、ワウワウテナガザル、シロガオオマキザル、ノドジロオマキザル、フサオマキザル、ヨザル、コモンマーモセット、コモンリスザル、ボリビアリスザル、ダスキーテイテイー)45頭の糞便と中間宿主のゴキブリを寄生虫学的に検索した。なお、同時期に他の疾患で死亡した5種のサル(ドウグロタマリン、コモンマーモセット、ピグミーマーモセット、アカテタマリン、ムネアカタマリン)も剖検した。
【結果】
病理学的所見:リスザル5頭(ボリビアリスザル3、コモンリスザル2)の回腸末端〜盲結腸部を中心に、小豆大から小指頭大結節が見られた。管腔内には最大35.5mm長の様々な成長期にある鉤頭虫が認められ、ときに100余隻の虫体が内腔を閉塞していた。虫体は腸粘膜に深く侵入し、高度な例では、筋層にまで達し、貫壁性に肉芽組織によって置換され、壁がび漫性あるいは限局性に肥厚していた。また、膿瘍形成や腹膜炎を伴っていた。リスザル以外のサルでは、消化管内に虫体を認めたものの結節形成は見られなかった。寄生虫学的検査:今回の鉤頭虫症の原因はP.
elegansと同定された。Aエリアの3種の新世界ザル(コモンリスザル、ドウグロタマリン、アカテタマリン)及びテナガザル計35頭の糞便検査で15頭に虫卵を確認した。虫卵は黄褐色、平均長径68.06×短径44.47μで、厚い卵殻を有していた。また、被嚢幼鉤頭虫(cystacanth)感染はAエリアのチャバネゴキブリ(Blattella
germanica)のみで52匹中25匹と非常に高率に、成虫だけでなく幼虫からも検出された。また、ゴキブリ1匹あたりの寄生数は1〜14で、体長2.29±0.30×0.53±0.02mm
(n=7)であった。
【まとめ】
Prosthenorchis属鉤頭虫は、中南米産のサルに高率にみられる、高病原性の腸内蠕虫で、ゴキブリなどの中間宿主により感染し、効果的な治療法が確立されていない重要な蠕虫症とされている。このため、この種のサルを飼育する海外の施設では、この疾患のコントロールに十分注意を払っているようである。
日本では、近年、新世界ザルが展示用あるいはペットとして多数輸入されているにもかかわらず、これらを固有宿主とするProsthenorchis属鉤頭虫症に対する関心は低い。我が国では、過去に、今回のような集団発生の報告はなかったが、中間宿主であるゴキブリ対策が実施されていない場合には、国内でも生活環が完結し、さらに中間宿主の反復摂食によって感染が増幅し、濃厚感染個体では致命的となることがわかった。
人畜共通感染症としての鉤頭虫症の報告は、日本では、ゴキブリを食してしまったであろう1歳2ヶ月の大阪在住の男児にネズミの鉤頭虫であるMoniliformis
dubius 感染が、また、中国では、中間宿主である甲虫を食べた子供でブタを終宿主とするM. hirudinaceus の数百例の重症患者の発生がある。Prosthenorchis属鉤頭虫に関してはヒトへの感染の報告はない。しかし、今回の検索で、新世界ザルに限らず、テナガザルにも感染が認められたことから、相当広い宿主域を有するものと推察された。このことから、飼育者・獣医師は十分に警戒しなければならない疾患である。
6.症例報告
1.チンパンジーのエルシニア症
江見美子 ((株)三和化学研究所 熊本霊長類パーク) (座長 前田博)
Yersinia pseudotuberculosis(以下仮性結核菌)は、ヒトを含む霊長類に急性経過をたどる致死的腸炎や敗血症を引き起こす人獣共通感染症起因菌のひとつである。低温でも発育するため、冬季に流行する特徴を持つ。
三和化学で群飼育されるチンパンジーにおいて、2年連続して冬季に仮性結核菌感染症が発生したので報告する。
2000年から2001年にかけての冬季に3頭で発生がみられた。発症した3頭は、約10日間の軟便〜軽度下痢の後急速に悪化し、食欲不振〜廃絶、赤褐色の軟便〜下痢、ふらつき、衰弱が見られ、その当日から翌日に2頭が死亡した。1頭は治療により回復した。死亡した個体は三和産の11歳(♀)と9歳(♂)で、約150m離れた別の施設でそれぞれ飼育されている個体だった。回復した1頭は死亡した11歳(♀)と放飼場を共有する野生由来の19歳(♀)で、白血球数35、000(/mm3)と高値で、臍部に拳頭大腫瘤が触知され、低K血症を併発していたが、約20日間の抗生物質(CPZ)投与で治癒した。
死亡した2頭の病理学的検査では、小腸および大腸粘膜の広範な壊死、肝臓・脾臓の多中心性巣状壊死(米粒〜大豆大の白色結節)、化膿性壊死性腸管膜リンパ節炎が見られ、壊死性腸炎と敗血症像を呈していた。糞便あるいは肝臓から仮性結核菌が分離されたが、2頭の菌株の血清型は3型および6型と異なり、複数の仮性結核菌の汚染経路があることが判明した。
PCR法による全頭の糞便中仮性結核菌DNA(vir-Fおよびinv)の定期的スクリーニングを導入したところ、2002年1月に2度(3頭)の発生が確認され、2頭では下痢、元気・食欲の低下が見られたが、1頭では無症状だった。いずれも2歳、6歳の若齢だった。3頭とも抗生物質(OFLX)の投与により2〜4日で陰性化した。PCRでのスクリーニングを実施することで、仮性結核菌感染症の早期発見・治療が可能となった。同時に同居個体への予防的投薬と施設消毒を行い感染の拡大を防ぐことが出来た。
しかし、仮性結核菌の感染経路は未だ不明である。周辺で目撃される野生動物(ノネズミ、タヌキ、野鳥等)の糞便から仮性結核菌は今のところ検出されていない。現在飼料や水などを含めチンパンジーとの接触があると思われるものを幅広く検査し、原因究明を行っているところである。
2.ニホンザルに認められたクマ蛔虫を疑う幼虫移行症
岸夏樹1、落合知枝子1、宇根有美1、佐藤宏2、野村靖夫1 1麻布大・病理、2弘前大・医・寄生虫 (座長 前田博)
Baylisascaris属蛔虫による幼虫移行症はアライグマ蛔虫に代表される致死的な神経症状を引き起こす人獣共通感染症として問題となっている。今回、ニホンザルの1集団に神経症状を伴った幼虫移行症の発生をみたので報告する。
【経過】
ニホンザル(以下サル)約30頭とアメリカクロクマ、ツキノワグマを混飼している施設で、1989年より、てんかん、後躯麻痺などを呈するサルがみられるようになり、2001年2月まで断続的に、表1のように8頭が1日〜12ヶ月の経過で斃死した。この施設では、サル・クマ飼育場はアライグマ飼育場に隣接しており、その排水は側溝に流入し、サルは自由に側溝に出入りしていた。なお、アライグマとクマには定期的に駆虫を行っており、クマにのみ蛔虫(Baylisascaris
transfuga)の寄生が確認されている。
表1 (ND:未検査)
|
No. |
年齢 |
経過(発症〜死亡) |
臨床症状 |
脳病変の有無 |
| No.1 |
4歳 |
1993.6.9〜7.26 |
(1.5カ月) |
てんかん 有り |
| No.2 |
6歳 |
1996.1.20〜7.4 |
(6カ月) |
後肢麻痺、痙攣 ND |
| No.3 |
2歳 |
1998.7.4〜9.9 |
(2カ月) |
痙攣 有り |
| No.4 |
5歳 |
2000.6.17〜2001.2.10 |
(8カ月) |
後肢麻痺、痙攣 有り |
| No.5 |
2歳 |
2000.2.26〜2001.3.5 |
(1年) |
てんかん 有り |
| No.6 |
1歳 |
1989.10.7〜10.8 |
(1日) |
てんかん ND |
| No.7 |
1歳 |
1991.3.2〜4.16 |
(1.5カ月) |
後肢麻痺 ND |
| No.8 |
1歳 |
1991.3.28〜7.4 |
(3カ月) |
痙攣 ND |
【材料と方法】
斃死したサル8頭中5頭(No.1〜5)を病理学的に検索した。また、飼育施設内の土壌の虫卵汚染調査も行った。
【結果】
脳を検査した4頭全てに多発性脳軟化巣が観察された。軟化巣には、出血、格子細胞浸潤、肥満星状膠細胞の増数と浸潤、線維性グリオーシス、空洞化、好酸球、好中球やリンパ球浸潤が様々な程度と組み合わせで認められ、同一個体に新旧の軟化巣が観察された例もあった。病変は主として大脳に観察されたが、分布に一定の傾向はなかった。2頭のサルの脳(No.4)、肺(No.4,5)および腸間膜(No.4)に幼虫が認められた。幼虫は切片上で横径約60μmで、一対の側翼、左右対称性に排泄管を有し、回収した幼虫は体幅約80μm、尾部は鈍であった。また、土壌虫卵調査の結果、アライグマ飼育施設の土壌には虫卵は検出されず、サル・クマ飼育施設8カ所のうち、サル山の1カ所の土壌から直径65μmの蛔虫卵が回収された。
【まとめ】
以上の結果から、脳に蛔虫が確認されたのは1頭のみであったが、病理学的に検査した全ての脳に虫道形成と目される新旧の出血、軟化巣が認められ、詳細に観察できた症例において、大脳、肺、腸間膜に被嚢幼虫が観察されたこと。その被嚢幼虫の形態はBaylisascaris属蛔虫の形態と一致したことより、これらのサルはBaylisascaris属蛔虫による幼虫移行により神経症状を呈し、死に至ったものと推察された。Baylisascaris属蛔虫には、いくつかの種類があるが、疫学調査の結果と幼虫の形態から、今回の集団発生の原因としてアライグマ蛔虫あるいはクマ蛔虫が考えられた。この2種の幼虫形態は酷似し区別は難しいが、現在のところ尾部の形態によってのみ鑑別可能とされており、肺から分離された幼虫の尾部の鈎状突起はクマ蛔虫のそれと類似していた。この施設では、アライグマにかつて蛔虫の寄生が確認されたことがないことからクマ蛔虫による幼虫移行症の可能性が高いと考えた。クマ蛔虫においても幼虫移行症が起こることが、実験的に証明されているが、ヒトを含めて動物には自然発生性幼虫移行症の報告はなく、本症例は、ニホンザルにおけるクマ蛔虫を疑うBaylisascaris属蛔虫幼虫移行症の初めて報告である。Baylisascaris属蛔虫卵は2〜4週間あるいはそれ以上かけて感染力を有し、土壌中で何年も感染力を持ち続ける。これらの蛔虫卵で汚染された土壌との接触がBaylisascaris属蛔虫感染のもっとも重要な危険因子であり、汚染土壌における清浄化の徹底が望まれる。
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