| 3) サル類のエルシニア症 −リスザルを中心として− | ||
| 麻布大学獣医学部病理学研究室 宇根 有美 | ||
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1 エルシニア属菌 腸内細菌科に属する通性嫌気性グラム陰性桿菌で、4℃以下でも発育可能な低温発育性を有し、11菌種に分類されている。病原性をもつエルシニア属菌としては、1) Y. pestis(ペストの原因菌で、現在日本には存在しない)、2) Y. enterocolitica、3) Y. pseudotuberculosis(動物の肝臓や脾臓に結核結節に類似した病変を形成する仮性結核の原因菌)の3種が知られている。後2者はヒトと動物に急性腸管感染症を引き起こし、これらを一般的にエルシニア症という。本ワークショップでは、この2つのYersiniaの疫学と病理を紹介する。
2 Y. pseudotuberculosis Y. pseudotuberculosis はO抗原により、1〜15の血清群に型別され、さらに血清群1、2、4および5はさらに数亜群に分けられており、現在までのところ、21血清群がある。このうち、血清群1〜6群および10群がヒトに病原性を示し、分離される血清型が地域によって異なる。欧米では、ほとんどが1、2と3型に限られる。しかし、我が国では種々の血清型が分離されており、動物では、3型30%、4b型22%、1b型22%、5b型5%、5a型4%、2b型3%が分離されている。 サル類はY. pseudotuberculosis に対して感受性が高く、欧米および日本において、多くの集団発生が報告されている。その種類は多岐にわたっており、日本では、ロリス科ショウガラゴ、オナガザル科サバンナモンキー、スーテイマンガベー、ブラッザモンキー、パタスモンキー、マンドリル、クロザル、オマキザル科フサオマキザル、リスザル、テナガザル科シロテナガザル、フクロテナガザル、オラウータン科チンパンジーの報告がある。これらの中ではリスザルの報告が多いが、これは飼育施設数と頭数が多いことや飼育状況によるものかも知れない。血清型としては、3型、1b型、6型が分離されているが、自験例を含めてリスザルでは、4bが最も多く3施設、1b型と6型が各1施設から分離されている。また、1施設でも年によって異なる血清型の流行が起きている。実際のリスザルにおける発生状況と病理像を本ワークショップで紹介する。ヒトおよび動物のエルシニア症の発生には、保菌動物が深く関わっており、欧米では、ノウサギ、齧歯類および鳥類が注目されており、21種類もの野鳥から分離されたという報告や、フランスやイギリスでは、野鳥の糞によって汚染された野菜による感染も報告されている。日本では、鳥類から分離されることは少なく、齧歯類が重要な保菌者として考えられているが、感染源が特定されることの方が少ない。
3 Y. enterocolitica Y. enterocolitica は感染型食中毒菌の1つで、現在51のO抗原型別があり、そのうちヒトに病原性を示すものとして9血清群がある。特にO-3、O-5、27、O-8およびO-9の検出頻度が高く、病原性血清型菌として知られている。このうち、O-3、O-5、27およびO-9は世界的に広く分布しているが、O-8の分離は北米に限られていた。近年、我が国でも、保菌動物としてのノネズミとヒトの発症例から分離された。O-8は他の病原性Y. enterocoliticaと比較すると特段に強い病原性を有しており、O-3、O-5、27およびO-9をマウスに経口接種しても、不顕性感染するだけであるが、O-8は感染が成立するとほぼ100%の個体が敗血症を引き起こし死亡する。ヒトにおいても、日本では敗血症例、海外では死亡例も報告されている。 動物におけるO-8以外のY. enterocoliticaの分離は、クマネズミ、シカ、豚、イヌや数種のサルの糞便などから、また、斃死したサルの組織からもなされているが、O-8の発症例は皆無であった。しかし、我々は、昨年末に、飼育下リスザルのO-8感染症の集団発生に遭遇し、微生物学的および病理学的に検索した。 【世界初の自然発生性O-8感染致死例の集団発生の概要】リスザル約50頭を飼養する施設での冬期の発生。45頭中17頭(37.8%)のサルの糞便からO-8が分離された。体重 300g以下の幼獣5頭が下痢を主徴として斃死した。4頭目のサルが死亡した時点で抗生物質を投与し流行の阻止を図っている。下痢以外に2頭のサルには下顎部の腫脹も見られた。肉眼的には、高度の腸炎と各種リンパ節と臓器における多発性膿瘍形成を特徴としており、組織学的には各臓器に菌塊を含む壊死巣や化膿性病変が認められた。分離O-8のパルスフィ−ルド分析とリボタイピングの成績は、青森由来株と同じであった。 以上の研究は、林谷秀樹先生(農工大・家畜衛生)、金子誠一先生、生井聡先生(東武動物公園)を始めとする動物園関係者の方々、野村靖夫先生、麻布大学獣医学部病理学研究室生らの協力を得てなされたことをここに記す。 |