5)   造血幹細胞移植プロトコールにおける全身放射線照射による腸管粘膜障害
 
社団法人 予防衛生協会                揚山直英
 

造血幹細胞は移植治療の普及に伴って医療現場で広く使われるようになった細胞である。さらに、最近では再生医療や遺伝子治療への応用が期待されている。そのような造血幹細胞を用いた、新規治療法の開発や前臨床試験のために、ヒトと近縁な霊長類の移植系確立が強く求められている。そのため、我々はカニクイザルを用いた自家造血幹細胞移植法の樹立を行った(Comp. Med. 2002, 52, 445-51.)。今回はそれら移植法と全身放射線照射による腸管粘膜障害(消化管障害)について紹介する。

まず、移植法について紹介する。動物にはあらかじめCVラインの確保をおこなった。その後、貯血した自家血を輸血しながら座骨及び腸骨より骨髄血50mLを採取した。それらから抗体結合マグネットビーズによりCD34+細胞(造血幹細胞)を単離した。全身放射線照射により、骨髄を廃絶したサルの静脈内に、造血幹細胞を自家移植した。移植後は中心静脈栄養、輸血、抗生剤投与等の指標として、数日おきに血球検査、生化学検査、体重、体温等をモニターし、造血回復までの期間、無菌室での管理を行った。

全身放射線照射によって、もっとも影響を受けるのが消化管である。照射後3日目頃から腸管粘膜上皮の剥離が観察され、水溶性下痢や、時として血性下痢が認められた。治癒に要する2-4週間の間、輸液管理による電解質補正、消化管出血の抑制などの処方が必要であった。その他の全身放射線照射の影響としては、感染症、血小板減少などが認められたが、抗生剤や全血および濃厚血小板輸血、血液生化学値に応じた投薬などの適切な処置によりコントロールは可能であった。これらの処置によりサルの造血は約2週間以内に再構築でき、移植後1年以上にわたって副作用、後遺症は認められなかった。事故で移植後20日目に死亡したサル及び60-70日目に安楽殺したサルの剖検所見では胃粘膜および消化管に出血傾向が認められた。安楽殺したサルの病理組織像では粘膜上皮細胞の再生や粘膜固有層の線維芽細胞の増生が認められた。なお、GFP発現レトロウイルスベクターを用いた造血幹細胞の遺伝子標識試験も施行し、この造血回復が内因性でなく移植細胞由来の回復であることも確認した(Hanazono Y et al. J Gene Med., 2002, 4, 470-7.)。

これらのことより、消化管障害などをコントロールできる集中治療管理を含めたカニクイザル造血幹細胞自家移植法が樹立できたと考えられた。今回開発した霊長類での造血幹細胞移植法は、ヒト造血幹細胞の性状解析および、造血幹細胞遺伝子治療の有効なモデルとして今まさに利用されている。