ニホンザルの胃癌の1例
 −サルでは胃癌は噴門部に好発するのか?−
 

○小林真人1,柳井徳磨1,後藤俊二2,加藤朗野2,酒井洋樹1,柵木利昭1
1岐阜大学・獣医病理,京都大学・霊長類研究所)
Gastric carcinoma in a Japanese maccaque (Macaca fuscata)
- Is the cardiac region predisposed site of gastric carcinoma in monkeys-

 

胃癌はヒトにおいて比較的発生の多い癌の一つであり,胃体部での発生が最も多く,噴門部での発生は少ないとされている.ヒトと多くの共通点を有するサルにおいては,胃癌に関連した報告は極めて少ない.今回ニホンザルの噴門部に発生した胃癌に遭遇した.その組織学的特徴を明らかにし,サル類における胃癌の好発部位について考察した.

症例はニホンザル,18.6歳,雄.死亡する約1年前から不定期に嘔吐を繰り返し,次第に削痩した.死亡する約2週間前からは頻回に嘔吐し,著しい食欲低下を示した.

肉眼的には,食道−胃接合部に直径約2cm大の腫瘤が認められ,噴門部は著しく狭窄していた.腫瘍表面は,高度な潰瘍を示した.腫瘤部は周囲粘膜から不規則に隆起するが,正常部との境界は不明瞭であった.

組織学的には,噴門部で胃粘膜は広範囲な糜爛および潰瘍を示し,潰瘍底を中心に大型の核を有する未分化な癌細胞が小型癌胞巣を形成しつつ粘膜筋板を越えて筋層へ,さらに漿膜付近にまで高度な浸潤を示していた.癌細胞の核は大小不同を示し,核仁は明瞭,分裂像もしばしば認められた.癌細胞は稀に腺管様構造を形成しており,その構成細胞ではアリューシャンブルー・PAS染色にて陽性を示す粘液が認められた.また一部の腫瘍細胞は扁平上皮様分化を示していた.

本症例は発生部位および形態学的特徴から噴門部原発の胃腺癌と診断された.当研究室では,過去にBrazza’s guenonの胃噴門部に原発した胃癌を報告している1.その症例では腫瘍細胞の腺管様形成が顕著であった.また,サル類では過去に3例の胃癌(腺癌1例,扁平上皮癌2例)が報告されているが,いずれも噴門部で発生している.サル類では,胃癌は噴門部に発生する傾向がみられるが,その原因は明らかでない.

 

1Yanai T, Noda A, Sakai H, Murata K, Hama N, Isowa K, Masegi T

Advanced gastric carcinoma in a de Brazza’s guenon(Cercopithecus neglectus)

J. Med. Primatol 1997; 26: 257-259